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News・2020/12/13

人間さえ広告になる時代?新しい広告媒体「存在代行広告」とは

最近、一定の文言を連呼する人間がいるのを見かける。それは、時折見かける個人的な独り言を繰り返す方のそれではない。はっきりとした声で言うのだ。「全身脱毛月々8490円から!ツルスベ肌で輝く女性に。銀座クリニック!」と。
これは、最近登場した広告形態「存在代行広告」(またの名を「人間広告」)である。企業が、Uber Existenceをはじめとした存在代行サービスを用いて、自社の宣伝文句を媒体となる身体に言わせると言うものだ。

革新的な広告媒体

東京近郊で介護老人ホームなどの事業を手がけるグラシアス株式会社の広報担当の貝崎氏=仮名に話を聞いた。
貝崎氏によれば、この存在代行広告は、web広告やYoutube広告とはまた異なる層にリーチできる媒体なのだという。そのような広告は10〜40代の利用者がボリュームゾーンとなり、グラシアス社がリーチしたい、60〜80代の顧客にリーチするためにはあまり効率的な手段ではない。その点で、存在代行広告は、物理的に広告人間を現地に向かわせることができるので、全年齢に対して効果がある。

グラシアス株式会社 広報担当 貝崎氏=仮名

さらに、貝崎氏は重ねる。
「物理的な広告なら、電車の中吊り広告などがあるだろうと思われるかもしれないが、例えば山手線の中吊りをやるなら1ヶ月でおよそ350万円という金額がかかります。我々のような中堅企業にはそのような広告費を賄うことは難しいし、電車などに広告を出してもそれを見る層は通勤社員などが多くなる傾向があります。その点でも、存在代行広告は、1時間1人1500円程度と安価であり、さらにピンポイントでリーチしたい顧客層にアクセスできるのが強みなのです。」
グラシアスでは、中年〜高齢の方々が多くいる、平日昼間のスーパーマーケットや、昼間のバスの車内、高齢者むけジムなどにアプローチする。これまで広告を出せなかったような場所が広告の場になるという、革命的な広告媒体だと貝崎氏はいう。
さらに、グラシアス社が広告を出す存在代行者が、その場所に行くわけではない。普段からそこにいる消費者たちのうちの誰かに存在代行させ、普段の会話の中に広告文句を紛れ込ませるというのだ。つまり、高齢者向けのジムで普段通りトレーニングをするお婆さんが、あるとき突然、「介護付き有料老人ホーム、メゾン光が丘。随時ご相談、ご見学受付中。」と口走るのである。

普段どおり生活するだけ?

また、自らが広告媒体として働く、近藤レラさん(21)=仮名はこう語る。
「私は、普段は通販雑誌のモデルなどをしているのですが、それだけだと収入が少なかったので、アルバイトやもちろんUber系の仕事も同時にやっていました。でも、それにくらべると、この人間広告は、本当に良い仕事ですね。なるべく私と同世代の女性が多くいる場所にいることを心がけておけば、本当に普段どおり過ごしているだけで、自分の自由も奪われないし、通常の存在代行業より報酬もそこそこ高いです。まあ、友達とばったり会ったときとかに、いきなり『安藤カレンさん愛用、エヴァーカラーワンデーモイストUVマリアージュ!』とか口走ったときはさすがに焦りましたけどね笑」
存在代行サービス最大手のUber Existenceは、ビジネス利用の顧客に対して、一定額課金することで、ロゴを外すことができるようにすることを検討しているようだ。これが実現されれば、もはや、目の前の人がその身体の所有者の意志として会話しているのか、はたまた何か企業の目論見のもと会話しているのか、見分けがつかなくなるのもそう遠くない話なのかもしれない。